中南米のスタートアップエコシステムの現状と未来

中南米スタートアップエコシステムの成長背景

ラテンアメリカのスタートアップエコシステム

Startups Latam 2023: 成長、投資、トレンド

主なポイント

• 2023年のラテンアメリカのスタートアップ市場は回復傾向にある
• 投資額は前年比で増加し、ユニコーン企業の数も増加
• テクノロジー、フィンテック、eコマースなどの分野で注目を集めるスタートアップが台頭
• 地域別では、ブラジル、メキシコ、コロンビアなどが主要な市場

[PDF] 中南米およびカリブ海地域の新興企業(スタートアップ)

概要

• 2022年、ラテンアメリカには31の「ユニコーン企業」(企業価値10億ドル以上の非上場企業)が存在し、ベンチャーキャピタル投資は28,000万ドルに達した。
• 各国政府はスタートアップ企業を支援するための法整備を進めている。ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、コロンビア、チリなどが主な動きを見せている。
• 法整備の内容は、金融テクノロジー(フィンテック)企業の規制、ベンチャー投資への支援、イノベーション促進など多岐にわたる。

ブラジル

• ブラジルは16のユニコーン企業を抱える、ラテンアメリカ最大のスタートアップエコシステムを持つ。
• 2018年に銀行の関与なしにクレジットを提供できるようフィンテック企業を規制する法整備を行った。
• 2021年には「スタートアップ法」を制定し、エコシステムの育成を図っている。

メキシコ

• メキシコは8つのユニコーン企業を有する、ラテンアメリカ第2位のスタートアップ大国。
• 2018年に「金融テクノロジー法」を制定し、フィンテック企業の安全性、プライバシー、透明性を規定した。

アルゼンチン

• アルゼンチンには1つのユニコーン企業がある。
• 2017年に「ベンチャーキャピタル支援法」を制定し、投資家や起業家への支援策を設けている。
• 2022年には「知識経済法」を制定し、テクノロジー分野の発展を後押ししている。

コロンビア

• コロンビアは3つのユニコーン企業を有する。
• 2020年に「起業法」を制定し、イノベーションの促進と企業の成長・持続性を支援している。
• フィンテック企業の規制に関する検討も行っている。

チリ

• チリには2つのユニコーン企業がある。
• 2022年に「フィンテック法」を制定し、金融サービスの包摂と革新を促進している。
• 国営のスタートアップ支援機関「Start-Up Chile」も設置されている。

その他

• ウルグアイ、エクアドルなどでもスタートアップ支援に関する法整備が進められている。
• BBVA Sparkなどの金融機関も、ラテンアメリカのスタートアップ企業を支援している。

中南米のスタートアップ成功事例

主要なラテンアメリカのスタートアップ企業の資金調達状況

• ラテンアメリカ地域のスタートアップの中で、最も多くの資金調達に成功しているのはコロンビアのRappiです。同社は14億ドル以上の資金調達に成功しています。
• ブラジルのNuBankは11億ドルの資金調達を実現し、Rappiに次ぐ資金調達額を誇っています。
• メキシコでは、決済サービスのClipが最も資金調達に成功しているスタートアップです。
• その他の国では、
  merca20.com
  、
  merca20.com
  、
  merca20.com
  などが注目を集めています。
• merca20.com
• 全体としてラテンアメリカのスタートアップ企業は、デジタル、金融、ヘルスケアの分野で資金調達に成功している傾向にあります。

ラテンアメリカのスタートアップ事例

Rappi (コロンビア)

• 2015年にボゴタで創業
• 食料品や日用品の配達サービスを提供
• 急速に成長し、2018年にラテンアメリカ3番目の「ユニコーン」(企業価値10億ドル以上)に
• 利便性の高いサービスで市場ニーズに応えた

MercadoLibre (アルゼンチン)

• 1999年にブエノスアイレスで創業
• eコマースプラットフォームを提供
• 当初は課題も多かったが、決済サービスの導入などで信頼を獲得
• 2007年にNASDAQに上場し、ラテンアメリカ初の上場企業に

Nubank (ブラジル)

• 2013年にブラジルで創業
• 手数料の安い完全デジタル銀行サービスを提供
• 若者を中心に急成長し、ラテンアメリカ最大の独立系デジタル銀行に

サンパウロ - ラテンアメリカ最大のイノベーションエコシステム

• サンパウロの起業家エコシステムは1,080億ドルの価値があり、第2位のメキシコシティ(220億ドル)の約5倍に相当します。
• サンパウロは、ブラジルおよびラテンアメリカ全体で最も注目されるイノベーションハブです。ここには多くのユニコーン企業が集まり、金融テクノロジー(フィンテック)分野が強く、スタートアップへの投資額も記録的な水準に達しています。
• bbvaspark.com
  • 12社のブラジルの17社のユニコーン企業がサンパウロに拠点を置いている
  • 2021年にはブラジルのスタートアップ企業が94億ドルを調達し、前年比165%増加
  • サンパウロはフィンテック分野で世界第4位にランクされ、166社のフィンテック企業が集積
  • 公的・民間の支援ネットワークが整備されており、有力なアクセラレーターやインキュベーターも存在
  • 世界トップレベルの大学を擁し、優秀な人材を惹きつけている

LATAM地域の5つのスタートアップが事業モデルを変革

• かつては B2B（企業間取引）モデルだったものが、今日では B2C（企業と消費者間取引）モデルとの補完的な形態に進化しています。
• 単一の事業モデルにこだわるのは起業家にとって一般的な過ちですが、新しい可能性を開くことがスタートアップの成長につながります。
• そこで、B2B と B2C の2つのビジネスモデルを融合させ、市場を席巻しているいくつかの企業を紹介します。

CREHANA

• オンラインコース提供のLMS（Learning Management System）スタートアップで、実践的なクリエイティブおよびデジタルスキルの習得に特化
• 2018年にCrehanaは350のオンラインコースを提供するコミュニティに到達しましたが、成果が遅いことに気づき、2020年にCrehana for Businessを立ち上げ、個人ではなくチームで学習するモデルに切り替えた

TALENTLY

• テック業界の厳しい採用プロセスを成功裏に経験できるよう支援するエンプロイアビリティ・アクセラレーター
• 当初はアメリカ企業に焦点を当てていましたが、現在ではラテンアメリカ企業が全体の50%を占めるまでに成長し、600人以上のリモートワーカーを抱えている

RAPPI

• 食事やスナック、医薬品などを短時間で配達するプラットフォーム
• 現在Rappiは、企業向けのデジタルマーケティングソリューション「Brands by Rappi」の立ち上げを計画しており、B2B市場に対応していく

REVERSSO

• 消費者に即時払い戻しを提供し、生活を便利にすることを目的としたスタートアップ
• 良い製品が問題を解決するだけでは十分ではなく、早期から成長戦略に焦点を当てる必要があるということ

PLATZI

• ラテンアメリカ最大級のオンライン職業教育プラットフォーム
• 新市場への進出や事業モデルの拡張に恐れを感じず、大きな成功を収めている

スタートアップが直面する課題とその解決策

ラテンアメリカのスタートアップエコシステムの慣性を克服する

多面的な課題

• 複雑な規制: 国や地域によって異なる規制の複雑さが、企業設立から事業拡大まで、スタートアップの道のりを複雑化させています。
• 資金調達の制限: 早期段階での投資資金の不足が、イノベーションと成長を大きく制限しています。
• インフラの不足: 強固なデジタルおよびロジスティックインフラの欠如が、スタートアップの効率的な運営と拡大を阻害しています。
• リスク回避的な文化: 失敗への恐れが蔓延し、潜在的な起業家の意欲を減退させ、イノベーションを阻害しています。

企業主導の変革

• イノベーションプログラム: 資金提供だけでなく、メンタリングやadvanced技術へのアクセスなどの包括的なサポートを提供し、スタートアップの価値提案の洗練と市場投入を加速させます。
• 戦略的アライアンス: 企業とスタートアップの協力は、新しい市場や用途の探索を可能にし、相互の成長を促進します。
• 企業ベンチャーキャピタル(CVC): 戦略的目標に合わせた投資は、スケーラビリティと価値チェーンへの統合への道筋を提供します。

文化的・財務的障壁の克服

• 教育と文化的変革: 失敗を学びの機会と捉える文化の醸成が重要です。早期からの起業教育が、より大胆で回復力のある起業家精神を育むことができます。
• 資本アクセスの民主化: 種子段階の資金提供基金や、エンジェル投資家ネットワークの育成が、スタートアップの初期推進に不可欠です。これらのメカニズムは、イノベーション投資を奨励する政策によって補完される必要があります。

2023年のラテンアメリカ・スタートアップ投資動向

• 2023年のラテンアメリカにおけるスタートアップ投資は大きな変動を見せている。Crunchbaseのデータによると、第3四半期は前四半期比8%増の約6.99億ドルの投資があったものの、前年同期比では46%の大幅減少となった。
• 2021年にはラテンアメリカのスタートアップ投資が130億ドルに達するなど過去最高を記録したが、2023年の1-3四半期の投資総額は20億ドルにとどまっている。

投資の行方

• 第3四半期は後期ステージへの投資が活発化し、3.65億ドルが投入された。前四半期の4700万ドルから大幅に増加した。代表例として、ブラジルの不動産プラットフォーム「Loft」が1億ドル、「Mottu」が5000万ドル、「Gringo」が3000万ドルの資金調達を行った。
• 一方、初期および種子ステージへの投資は前四半期比50%減の1.96億ドルと大幅に減少した。前年同期比でも46%の減少となった。

変化する環境

• 多くの有名スタートアップ、例えば「Loft」「Neon」「Rappi」などが人員削減などの調整を余儀なくされている。IPOや高額M&Aも減少傾向にある。
• しかし、後期ステージへの投資回復は前向きな兆候であり、投資家が慎重ながらも有望企業への支援を惜しまないことを示している。
• ラテンアメリカのスタートアップ生態系が2021年の水準に回復できるかどうかは今後の動向に注目が集まっている。

ベンチャーキャピタル投資のラテンアメリカ動向 - BBVA Spark

ラテンアメリカのスタートアップ: 2023年の資金調達と投資の動向

• 2023年、ラテンアメリカのスタートアップ企業への投資は前年比41.29%減の48.21億ドルと大幅に減少した。金利上昇と経済減速の影響により、企業は健全な事業指標を重視し、デットファイナンスなどの代替手段に頼る傾向にある。

新しい資金調達手段の台頭

• ベンチャーデットと呼ばれる、株式を取得せずに借入で資金を調達する手段が注目されている。これは一部のスタートアップにとって有効な選択肢となっている。
• また、ブートストラッピングやファクタリングなど、自己資金や売掛金を活用する手段も活用されている。

有望な分野と2024年の見通し

• 2023年はAIが大きな注目を集めた。2024年も引き続きAIが成長の原動力となるが、単なる一般論ではなく、具体的な適用方法や差別化要因を示す必要がある。
• 経済環境の改善と金利の落ち着きにより、2024年はベンチャーキャピタルの投資が回復に向かうと期待されている。ただし、2021-2022年のような水準には戻らず、慎重な姿勢が続くと見られる。

未来の展望：デジタル化と新ビジネスモデルの影響

中南米のスタートアップ企業

• 中南米地域では近年、革新的で技術集約的な新興企業（スタートアップ）の創出に対する政府の関心が高まっている
• 本レポートは、Crunchbaseのデータを用いて、一定の基準を満たすこれらの企業を特定し、分析したもの
• これらの企業は、より複雑で洗練された生産エコシステムの構築と、地域の新しい能力形成に貢献することが期待される

スタートアップ支援政策の進展と課題

• ブラジルが最も多くのスタートアップを抱え、メキシコは地域的に均等な分布を示している
• チリは最も長い歴史を持つスタートアップ支援政策を展開しており、他国でも制度的基盤の強化や資金供給の拡大などが進んでいる
• しかし、研究開発投資の低さ、インターネット接続速度の遅さなど、イノベーション力の向上には課題が残されている

OECD、ラテンアメリカのスタートアップに関する新しい調査を発表

• OECDは、ラテンアメリカのスタートアップの動向と、スタートアップ支援政策の役割に関する最新の報告書を発表
• チリ、コロンビア、メキシコ、ペルーの4か国の経験を比較分析し、スタートアップ支援策の優良事例と教訓を明らかにしている
• スタートアップの成功には、市場、制度、ネットワークなどの環境整備が重要であり、各成長段階のスタートアップが直面する課題と公的支援策の重要性を指摘している
• チリのスタートアップ支援策は1998年以降大きく拡充されてきた

今後の課題と提言

• スタートアップの定義と実態の把握
• 支援プログラムの成果測定と改善
• 支援策の簡素化と戦略的な重点化
• 生産性向上分野への支援
• 支援策の短期・中長期的な視点
• 金融機関や民間企業との連携強化
• 地域間協力の促進
• 各国の文脈に応じた支援策の設計